「心理的安全性が高く」

 

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異なる幽霊たちの写真に耳を傾けて、彼らの共通点を探そうとしている。血が乾いたような質感の髪の毛たちを従えて、崖の上に立っているのが他でもない私だ。融けてしまわないことだけが誇りの、しがない私だ。勇敢な馬や鈍い羊のように、狂い慣れていないことによるかわいらしい熱を帯びている。しかし所詮はそれも嘘の先端で、脆い。手を叩くだけで生じる誤差のような赤子の誕生に、また誤差が降り注ぐ。終わらないものは無いと言いながら、私たちは終わらない目眩の中を彷徨している。私の終わりがすべての終わりではない。さっさと腐ってしまいたい。そんな弱音の青信号が鼓膜を劈いて、遅延の知らせは繊維のようにほぐれて舌に残る。暮れる夕方が痛い。喉から死んでいく私たちによる真実の獲得は、母校の屋上でまだ遠くを見つめている砂のたった一粒、追い越したつもりのあどけなさが、真っ赤な照明によってはぐらかされてゆくように、そうして、まったりと、……。

空白を満たすには若すぎる

 

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果物のような甘さで日々は加速してゆき、それはそれは健康的な鬱屈である。皿の上のケーキを孤独と例え、過剰なまでの装飾を咀嚼する。目的地を経由するバスの、亡霊によく似た明るさが街ごと吸引しながら進む。高らかに笑う少年少女はいない。平和を願う鐘が地面を鳴らして乾いた傷口と握手する。差し伸べられた手のすべてが優しさであればよいのだけれど、皮膚一枚をめくった先の花畑に立つ勇気が、君にはあるだろうか?

混同しているということを自覚しているような洗顔のあとで、薬局の匂いに連れ去られた水たちのことを思い出す。バス停は愛するたった一人のもとへ駆けて行き、また三日月は欠落によって完成するのだということをその身をもって証明した。銀色の定規で他人の輪郭をなぞったり、うとうとする時間の目をこじ開けようとすることに夢中になって、二度と目が覚めなくなるような感覚に襲われた朝が、夜と血縁関係にあることを知らない魔法使いたちは。

後戻りできないことの快感に生かされている。絶対、と君が言うからますますわからなくなる。いったい、いつの間に眠り、目覚め、交わすべき挨拶を放棄した今を迎えているのか。

壊れた果物ナイフ

 

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果物の匂いがする手で髪に触って 台無しにされちゃったほうの 

黒板に書いてあったような ふたつの軸が 今 見えているの あれにはどんな意味があったっけ とかを考えている

 

自分のことなのに、嘘かも って思ってる もしかしたら自分のことじゃないのかも って思ってる 共通言語は持ってないけど、なんか わかるよ くらいで、断線してる充電器のまんまだなぁ って 一生懸命に点滅してるiPhoneを見ていたら 見えないとされているものが 視界を埋め尽くして いつ終わってもおかしくないから おもしろい なーんて超つまんない終わり方

 

PARCOいいな LUMINEいいな あいうえお 

 

これは私の日記だし 誰かがなんか言ったって だから書いちゃうけど

早くおばあちゃん死なないかな 小銭といっしょに手を握られて すごく気持ち悪かったよ 死んだって泣かないよ 泣いてあげないよ 笑っちゃうかもしれない そのときは、ごめん。おばあちゃんが いなかったら よかったのにな こんな家は いらなかった こんな家がなかったら わたしもいなくて それはそれは きっと よいこと

死んでくれ。早く、死んでくれ。もう長くないことは知っている あがくな 生きようなんて思うな こんな家 おわりにしよう

 

 

朝が来ると感動をする

 

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迫り上がる夜か朝かわからない部屋の暗さか明るさか 爪を立てればやわらかい言葉に勝る体温なりや

 

「雪の鳴るほう 鬼さん、こちら」

 

桃源郷あれは躑躅の髪飾り白い躑躅のあばら骨 撫でると咽び泣くゆめの覚めてかわいい忘れんぼう

 

うそつきの窓辺ないけど教えるね気になるでしょう?きょうの月

 

 

 

みっちゃん

 

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☆みっちゃんは自動販売機にもたれかかって本を読んでいる

☆あたしはその隣の自動販売機にもたれかかって、なにもしてない

あ「ねえ、まぶしくない?」

み「んー まぶしくはない。」

あ「それ、おもしろい?」

み「んー おもしろくはない。」

みっちゃんはそっけない。そこがたまらん。と、あたしは思っている。

あ「みっちゃん、その本 なに?」

み「これねー ………………」

みっちゃんは答えない。みっちゃんは、忙しいのだ。

☆あたしは自分がもたれかかってた自動販売機を見る ポケットから小銭を出して 缶のコーラを買う、1本だけ

☆あたしはコーラを飲む 銀河の渦が遠くに見えて、握りつぶされてゆく乾いたばらの花のように喉が痛い

あ「みっちゃんはコーラ、飲まないよねえ?」

み「んー コーラ飲むと脳が溶けるって、ママが。」

あ「だからあたし、ばかなんだあ…」

み「そうかもね。」

☆みっちゃんは本から一度も顔を上げず、すなわちあたしの顔を一度も見ずに話す そして「フフン」と笑う

☆あたしは足元に置いてある(ほんとは、投げ捨てた)ランドセルを開け、今日の宿題であるかん字ドリルを取り出す

あ「みっちゃんは本ばかり読んで、いつ宿題をしているの?」

み「げっ。あたしちゃんは宿題、ちゃんとやっているの? …やっぱり、ばかなのね。」

みっちゃんはあたしのことを『あたしちゃん』と奇妙な呼び方をする。クラスメイトのみっちゃんが、あたしの名前を知らないはずがない。しかし、いい。とても。と、あたしは思っている。

☆あたしはランドセルにかん字ドリルをしまう あたしのランドセルは赤色で みっちゃんのランドセルは水色だ

あ「あたしねー、みっちゃんの脳が溶けたらどうなるか 気になるんだけど。」

み「コーラを飲め、ってこと?」

あ「うん。」

あたしがみっちゃんにコーラの缶を渡した、というか、みっちゃんがあたしからコーラの缶をすっと抜き取った、というか、なんか曖昧だった。あたしは、このコーラの缶は あたしとみっちゃんの生まれつきの共有物なのだ、という気がしてしまった。

☆みっちゃんがコーラを飲む 思いのほか、ごくごく

あ「どう?脳。」

み「あー ママの言うとおり。溶けてく 溶けてくー……」

あ「みっちゃんの脳が溶けたら、みっちゃんがなに考えてるのかあたしにもわかるかもしれない。」

み「あたしちゃん、なに言ってんの。それ意味わかんないよ。」

☆みっちゃんは本を閉じる ランドセルにしまおうとする

あ「みっちゃん。それ、なんて本?」

み「『広辞苑』。」

あ「コージエン?」

み「国語辞典だよ。」

みっちゃんが水色のランドセルにコージエンを入れたら、あとは何も入らなくなってしまった。

あ「おもしろくないのに、どうして読むの?」

み「わかんない。でも読むの。気づいたら、読んでる。読んでるっていうか、見てる。眺めてる?視界にある。理解してないかもしれない。あたしちゃんには、わたしがこれを読んでるように見える?」

あ「あたし、『おもしろくないのに、どうして読むの?』って、聞いたんだよ…」

み「あたしちゃん、漢字ドリルなんかしなくても、漢字は読めたり書けるようになるんだよ。あたしちゃんはちょっと、コーラ飲みすぎかな。」

みっちゃんの言ってることがあたしにはまだ、わかんない。

 

僕だけのわずかな頂点

 

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滅することのない握手の残骸

地下への階段を駆け上がるとそこは永久が絡みあった魂の墓地だった

 

深い息に呼応するようにして目尻から溢れる淡い

握り締めて離さないこの膨らみをまるでいつか死ぬもののように扱う

渇いた喉に到達する瞼の痺れがやがて熱へ 皮膚の下を巡り続ける虫の笑顔

毛先が鳴る 不規則な鼓動が持たない意味の軽やかさに溶けた甘い菓子 その過剰

踊るなら円盤の上で あらゆる艶を消して 飲み込まれる覚悟を持って

這う指の知覚しきれない情報をまさぐる清らな心臓は灰の色

結んだ睫毛に残る純度の高い風 置いてけぼりのその身まるごとを投げ捨ててネオンは解体を繰り返す

いつだって誰かが見ている

眩しい完全に閉じた視界を逃さぬように瓶の蓋をそっと閉める 次の日没までに再生しなければ凍結を約束される6本の脚

僕が指先で破壊したい街の頂点に硬直した波がやって来る

耳元で囁けば綻んでゆくような表情だけが維持している冷えきった命ひとつ