ズーちゃんの魂は死なないひとり旅 in 函館 後編

 

2018年 2月20日(火)

 

 6時に湯元駅を発つ。予定だった。目が覚めると、枡太一の情報番組が終わろうとしていた。昨日、テレビを点けたままで眠っていたらしい。加藤浩次の情報番組に切り替わって、平昌五輪のハイライトが流れた。昨日飛んだ男たちが、また飛んでいた。支度をせねばならない。

 

 通学にはすこし遅い時間の市電に、女子高生がひとり乗ってきた。いつだったか、「ズーちゃんには、行動力がない」と言われたことをふと思い出す。昨日受信したメールを読み返して、たしかに、わたしには行動力がないと思う。

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 オレンジ色はわたしのラッキーカラー。

 

 目的地に到着。函館朝市

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 いろいろとツボのポップ。 

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 きくよ食堂。バイト中に「るるぶ」や「まっぷる」を熟読、厳正なる審査の結果である。

 値段を見ずに「うにといくらとほたての三色丼ください(興奮)」と告げる。温かい麦茶が熱い。

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 運ばれてきた丼を見て、視力が5.0になった。ヒルナンデスの三色ショッピングで「赤と黄色と白の回」があったら、確実にこの丼をコーディネートする。「あなたが5,000円でショッピングしたのは、何色の何ッ」「黄色の~……うに」「ショッピング……成功です!」「山ちゃ~ん♡」うますぎて一口で痛風になった。食うたびに痛風になった。空になった丼を頭にかぶって帰宅したかったが大人なので我慢した。わたしには「大卒は米粒を残す」という偏見がある。

 「お会計、2,000円です」

 ショッピング、成功。

 

 函館朝市を散策する。新宿と姉妹都市なのかというくらいのキャッチの勢い。

 「お姉ちゃん、どこから来たの!」と尋ねられ「青森市です」と正直に答えれば「へえ」みたいなうっすい反応になるのが面白い。「大阪です」と言えばカニとか食わしてくれるんかと思って関西弁の練習をしながら歩く。

 「お姉ちゃん!食べたいものない?」と声をかけられ「カニ」と即答してしまった。カニ、あるよと店内へ引きずり込まれる。めちゃくちゃでかいカニの脚を持ち上げて「カニ」とおじさんは言った。そうだね、それはカニだ。「いくらですか」「2,500円」(高ぇ~)「どこに行っても同じような値段だよ」(高ぇ~)が漏れて「高ぇ~」になっていたらしい。おじさんは熱々の網の上にカニを乗せようとしている。走って逃げる。怖い。

 朝市のお土産屋さんをうろつく。「あなたが今日一番最初のお客さんなの。200円おまけするから買って」と迫られる。時刻は9時をとっくに過ぎているが、まだ客がひとりも来ていないってそれは本当なのか?どちらかというと嘘であってほしい。じゃあ、と松前漬けを買う。おばあさんが「ありがとう、ありがとうね」と強く手を握ってきた。なんかもう全員怖い。

 

 宿に戻る。チェックアウト前にもう一度温泉に入ろうと思っていたのだが、寝坊したので間に合わなかった。フロントで支払いを済ませる。また泊まる機会があれば、誰かと宿の豪華な晩飯を食いたいなどと思う。

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 足湯。

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 小学校の修学旅行で泊まったホテルの前を通った。部屋に飾られている絵の裏に、御札が貼ってあった。

 

 きのう教えてもらった植物園へ。バスを待つが一向にやって来ない。もしかしたら、わたしには見えていないだけで、もう行ってしまった可能性がある。そう思って歩く。

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 到着。猿が風呂に浸かっているというので、見る。猿の金玉でかい。「猿の金玉でかい」とツイートした。タイムラインで猿の金玉の話をしているのはわたしだけだった。

 植物園の中に入るとモワッとしてデジカメのレンズが曇る。

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 別名「天使のラッパ」本名は忘れた。そういうのうらやましい。

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 「ヒスイカズラ」高校のときの同級生の髪型みたいだ。あいつのこと嫌いだったな。

 

 次の目的地まで歩く。

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コーヒールームきくち。「水曜どうでしょうClassic対決列島の初戦の地となった場所。安田顕大泉洋がソフトクリームを持って走った道。安田顕がソフトクリームを落っことした道。定点カメラで撮影したため、ふたりの姿がほとんどテレビに映っていなかったけれど、たしかにそこにあった道。わたしが今、立っている道…

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 魔人とマスターがソフトクリームを3本食べた川沿いの道は、工事中で立ち入ることができなかった。

f:id:gmkss:20180415144453j:image  さすがに3本もソフトクリーム食えない。コーヒーとバニラのミックス。水曜どうでしょうClassicを見て、どうしてもこれを食べたくて来ました」と告げる。全国から、わたしのような人が訪れる。「二人とも、あんなに有名になっちゃってね」

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 あこがれのあれ。

 わたしは大泉洋と誕生日がおそろいで、わたしは大泉洋のことが好き。

 

 元町・ベイエリアへ。

 小学校の修学旅行のとき、はこだて明治館で見た「おちんちんチョコレート」のことを未だに忘れられていない。「先っぽからやさしく食べてね」みたいなキャッチコピーのチョコレートだった。あれから8年近くが経過している。「おちんちんチョコレート」を一目見ようと、わたしははこだて明治館を訪れたのだった、ふつうに売ってなかった

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 乃木坂、欅坂と並ぶ日本三大坂道のひとつ八幡坂。石畳かっこいい

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 配色がマッチ(炭酸飲料)と同じ旧函館区公会堂。小学生くらいまでは、笑うのが上手だった気がしている。

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 いい。

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 なんとか教会

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 なんとか教会 函館は木がいい。

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 気がついたら暗くなっていた。函館山のてっぺんが見える。昨日、あそこで寒いなにも見えんと震えていた。今日ならば、100万ドルの夜景が見えただろう。

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 頂上からの景色より、登っている途中で見上げる景色のほうがわたしには合っているのかもしれない。わたしはいつも、坂道を登っていたい。

 と、それっぽい負け惜しみを思う。

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 ここからの眺めで、十分である。

 下るとき、滑って転んだ。ナイキのランニングシューズだから。

 ベイエリアに戻り、家族にお土産を買う。父にカールレイモンの辛いソーセージ、母には塩カステラ、弟にはあじさいの生ラーメン、姉にはハセガワストアの冷凍やきとり、試食したらうまかったのでチーズケーキも買った。自分用にいかキムチを買って函館駅のほうへ。

 

 大門横町。

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 いい感じ!

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 店から出てきたおばちゃんに「お姉ちゃん、日本酒の晩酌セット、1,000円だよ」と声をかけられる。「ビールが飲みたいんですけど、ありますか」「晩酌セットは、スーパードライ大瓶1本」「サッポロクラシックは」「クラシックかい…」「クラシック…」「本当はセットでクラシック出してないんだけど、おまけしてあげる」「やったー!!!」「今日一番最初のお客さんだから」「え」

 え

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 箸で持ち上げてもしならないカチカチのサーモン。たこといかとえびとまぐろ。お通しのいかの明太子和えが一番おいしい。ビールをグラスに注ぐのが下手すぎて、それを見ていたおばちゃんが絶句していた。

 「ひとり?」「はい」「仕事で来たの?」「いえ」「学生さん?」「いえ」

 すぐに顔が赤くなるので、めちゃくちゃ心配される。あったかいもの食べな?と言われ、おすすめを聞くと「ほたてのバター焼きだけど、青森から来たんでしょう?青森ならほたていっぱい食べられるもんねぇ」

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 たしかにほたてが簡単に食える環境に住んではいるが、日常的には食わないよ。ということを言わずに「せっかくなのでください」と注文する。うま、うますぎて痛風になった。食い終わった貝殻を缶バッジにしたいくらいうまい。

 だんだんお客さんも増え始めて、青森県黒石市出身という声のでかい男性がやってきた。わたしはおばちゃんと男性の会話を聞いていたけれど「わたしも青森なんですよー」とは言えなかった。おばちゃんは気を遣ってわたしと目を合わせてくれたのだけれどわたしは「お会計お願いします」と言った。「新幹線まで時間あるでしょう、時間までここにいたらいいよ」と言ってくれる。「いえ、ごちそうさまでした。ありがとうございました。美味しかったです」「近いし、また来てね」

 

 なんとなくで外へ出てしまったはいいが、おばちゃんの言うとおり帰りの新幹線までは時間がある。大門横町の中をうろついて、焼き鳥屋さんへ入る。

 「つくねください、塩とたれ1本ずつ」「お水でいい?」「はい」

 わたし今よっぽど顔赤いんだろうな。高校のときに大嫌いだった部活の顧問が赤ら顔で、わたしはそいつのことをいつも馬鹿にしていた。

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 しょっぱい。しょっぺえ。しょっぺえもんはだいたいうまい。しょっぱいからうまいと言っても過言ではないがこんなことを言ったら土井善晴に怒られてしまうので家で料理をするときは土井善晴のレシピ本を見る。これは水と一緒に食べるもんじゃない、間違いなく酒だ。

 老夫婦ふたりでやっているかなり狭い店だった。さっきの店とは違って、わたしに話しかけてくることはなかった。平日、ひとりでふらふらしているすでに真っ赤の女に話すこともないだろう。食べ終わり、ごちそうさまを言う。美味しかったですと伝えると、ふたりとも笑って「ありがとう」と言った。

 

 さよなら、ありがと、北島三郎。新幹線の時間よりも1時間くらい早く新函館北斗駅に到着してしまった。ここで、大好きなバイト先にお土産を買い忘れたことに気がつく。キオスク!と思い自動ドアの前に立ったが開かない。時計を見ると4分前に閉店していた。ガラス越しにめちゃくちゃ白い恋人が積んである。(青森に帰ってから、どこかで北海道物産展を開催していないか調べたがだめだった。しかし百貨店の地下一階で柳月の三方六が売られていたのでそれでうまくごまかした)

 家族にもお土産は好評で、怖いおばあちゃんから買った松前漬けもちゃんとうまかった。2日間空けていたはずなのに、自分の部屋の布団がなぜかあたたかい。

 

  この旅で得たものとはいったいなんだったのか、わたしは今もわかっていない。だから、ずっとこの手記を書けないでいた。旅から帰ってきたあとで、自分がいいと思える文章や短歌ができるようになったわけでもない。

 2日間をひとりで過ごして、ずっと誰かが一緒だったらなあということばかり考えていた。わたしは高校生のころ、ほとんどひとりだった。いじめられていたわけではなくて、わたしが拒絶していた、それでよかった全然寂しくなかった。だけど、大人になってたくさんの人と出会ってたくさんの人を好きになって、自分で選んだ、選んだとは言い方が悪いけれど、でも本当にそうなのだ、自分で選んだ人たちと接することができるようになって、ひとりは嫌だなとちゃんとやっと思えるようになった。言っていることはきわめて単純でありふれていること、だけどわたしは、わたしは、端から見たら浪費しているだけのこの日々とそれに付き合ってくれる人たちのことを本当に愛している。

 

 「帰る場所なんて、いくらあっても足りないくらいなのだから あなたもまたここへ帰ってきなさいね」って言うのだ。誰の声かは知らぬ。しかし「おまえは今、旅に出なければいけない」とわたしに言った声と、たしかに同じ声だったような気がする。

 

 「プライドのお墓があるんですが、その上を東北新幹線がゆっくり走っています 駅の近くなんですね

旅行っていいですよね……魂は死なない (2018年 1月4日 23:04のツイート)」

 

 

 この手記を書き終えることができたのは、みなさんのおかげです。読んでくれて、ありがとう。