未来のほうからまず先に(わたしたちを信用しているという)真摯な態度を見せてください

 

2018 4月18日(水)

 

 年金を払えていない。仕事を辞めてアルバイトを始めてから、支払いが追いつかなくなった。

 はじめ、日本年金機構から茶色い封筒が届いた。茶色い封筒はまったくレアでないので無視をしていた。次に、白い封筒が届いた。すこし惹かれるものがあったが、白い封筒ならばその辺でも簡単に手に入るし、と思い無視をしていた。さらにしばらく経って、今度はピンク色の封筒が届いた。いよいよ無視をするわけにはいかなくなった。ピンク色の封筒を売っているところをあまり見たことがないし、どう考えても次は赤い封筒だからである。おとなしく年金事務所というところに電話をした。

 年金を払えていません、猶予をお願いいたします、あわよくば免除を、という話をするのに、華美な服装ではよろしくない。説得力に欠ける。高校生のときに古着屋で買った、ブラックサバスのきったねえバンドTシャツを着て、もちろん化粧などせずに年金事務所へ向かった。いくら田舎の代名詞青森とはいえ、ここはいちおう県庁所在地であるし、なんてったって年金事務所は国道1号線に面していやがる。恥ずかしい。20歳の女が、年金の支払いを免除してもらおうと、意図的にこんなみすぼらしい格好をして国道1号線をママチャリで爆走しているのだ。みすぼらしいのはきったねえTシャツではなくて、それを着ているわたしである。着替えてもみすぼらしさは脱げない、もはや皮膚だ。

 「正社員になりたいブルース」を歌えそうだった。

 なぜ、正社員という社会的に見て圧倒的な立場をあっさりと捨て、アルバイトという社会的に見て圧倒的弱者の道を選んだのかと言えば「金なんていらねえから早く楽にしてくれ」とロックンロールを叫んでしまったからである。そして今、まじで楽だがまじで金がなくて困っている。時給740円で働いているが、時給740円以上のパフォーマンスを心がけて時給740円で働いている。アルバイトならば掛け持ちをすればよい話、とお思いの方もいらっしゃるだろう、あなたは正しい。しかし、わたしは「二度と崩壊したくない」という気持ちが「金がなくてやばい」の気持ちより強い。蟻と白鵬くらいの差で強い。

 わたしは、たった半年の社会人生活で「人間は限界に達すると、古田新太を見ても笑えなくなる」という驚きの発見をしてしまったのである。つまり、古田新太を見ても笑えないときは、限界のサインだと思ったほうがいい。古田新太がつまらないということは基本的にはありえない。

 しかし、たとえ古田新太に笑えなくなる日がふたたび訪れても、赤い封筒を受け取るわけにはいかないのである。国から信用されるには金を払うしかない。古田新太は関係がない。

 支払いの猶予または免除の審査は、書類をもとにおこなわれるということだったので、別に襟がついた服を着て化粧をしてきてもよかった。ただのだらしがない女だと思われて終了した。「現在のゴミカスさん(仮名)の収入ですと、おそらく猶予という結果になると思われます」と言われ、その通りになった。

 

 ・・・というのが昨年8月の話である。

 

 わたしは現時点で将来もらえる年金の額が他の人より明らかに少ないというわけだが、ババアになってから金持っててもどうせババアだしな、という気持ちがあり、あまり気にしていない。最悪な話をするけれども、寿命は調節できてしまうので、本当に金が尽きたら、わたしなんかはたぶん平気で死ぬのではないかと思っていて、こういうところが若さだということも知っている。しかし、まじで年金ってもらえるのかな。

 猶予期間が終わってしまう前に就職しないといけない。わたしには学がなく、地元には職がない。ハローワークになんとなく立ち寄ってみたことがあるが、あそこはなんとなく立ち寄るような場所ではなかった。今のバイト先にはとてもよくしてもらっているため、ハローワークで職を探している自分が犯罪者のように思えてくる。近いうちに「年金が払えず就職することになりましたので辞めます」と告げる日が来るのだろうと思うと、ハローワークとかいうふざけた名前に八つ当たりしたくなる。つか、年金のくだりは言う必要がない。年金のことでこんなにも頭がいっぱいなのに、積立額はスカスカだ。

 追い詰められて日曜、生協の駐車場でついに「金さえあればあとはなんにもいらないな」と言った。思ったのではなくて声に出した、出た。3円を払ってレジ袋を買うのはなんだかばかばかしい。寂しさだって金で紛らわせることができる、と書きかけたが、そればっかりはどうしたって無理かもしれない。寂しいから人を好きになるというふうなことは、結局のところ人間的な貧しさであり、純粋な感情というものだけは金に化けることができないのだな。こうなったら、せめて人間らしく生きたいよ。しかし、金さえあればと思い止まず、生協の駐車場は限りを尽くしてぬるかった。