日記24

 

2018年10月28日(日)

 

ぽろっとつぶやくたびに詩になっちゃうから、困っちゃうなあ。と、市民病院前のバス停で、島田さんはつぶやいていた。わたしは、そのつぶやきには、詩を感じられなかったのだけど

「詩人なんて 目指しちゃだめなのよ、あれは 生まれつきなのよ」島田さんは、一粒の雨が着地して弾けるまでをきちんと見届けてから、言った。

わたしが、細々とではあるが文章を書いていること、島田さんにはひとつも言っていない。それなのに島田さんは「雨、いやだねえ あんたの言葉が 傘になればいいんだけどねえ」と。これからこの人と、同じバスに乗るのだ、というだけでそれは立派な傘になるような気がして、したけれど、文明すら雨に屈しているのだ、まだ。

「島田です。歳はひみつです。教えたってどうしようもない。島田と名乗ったのは、あなたに島田さんと呼ばれたいからで、本名はひみつです。教えたってどうしようもないでしょう」

「じゃあ、わたしは鳴門です。なると。ラーメンに浮いてるやつです。……浮いてるのかな、あれ。麺がなければ、沈んでるか。ただ麺の上に乗っかっとるだけか。そっか、その、鳴門です。えーと、歳、歳はひみつですが、ただいま4139度目の輪廻で、人生にチャレンジしてます」

島田さんによると、詩人になれるか/なれないかは生まれたときからすでに決まっているらしい。べつに詩人になりたいわけじゃないんだけど、と思いながら島田さんの話を聞く。じゃあ島田さんはなんなのさ、とは言えないけどつぶやきがいちいち詩になっちゃうんなら立派な詩人だろう。でもでも、自分が生まれつき詩人だってことに気がついたのはいつなのさ。

と言おうとしてバスが来た。島田さんの隣に座って続きを聞こうとしたんだけど、島田さんは整理券を取ったあと、ひとりがけの席に座った。近くのつり革につかまっていようと思ったんだけど島田さんは「バスが来たからさようなら」と、口を動かして声は出さなかった。でも、なんかわかった。それで、ふたりがけの席の窓側に座って、さっきまでわたしたちが話していたバス停のベンチを惚れ惚れした気持ちで眺めようとして、結露している窓ガラスを上着の袖でぬぐった。そこには島田さんがひとりでいて、じっ、と雨を見ている。発車までのわずかな時間、バスに乗ってしまったわたしとそこにいてきっと何も待っていない島田さんは、やっぱり目が合わなかった。